1.はじめに
ものづくりにおいて ”長さ” は切っても切り離せない関係です。
あらゆる工程において目にしたり、加工したり、測ったりとさまざまな形で関わることでしょう。
私たちが ”1m” と呼んでいるものは世界で共通の認識であり、物によってごくわずかな誤差はあってもほぼほぼ同じ長さです。それはいったいどうやって決められ、統一されたのでしょう。
また、かつての日本では長さは尺・寸・分などの単位を使っていました。これらも何をもとに決め、そしてなぜm・cm・mmなどに切り替わることになったのでしょう。今回はそういった長さや単位に関する歴史をまとめてみました。
2.尺貫法
尺・寸・分などの単位は、唐の時代に中国から律令制度と共に伝わったと言われています。
これをもとに長さは尺、重さは貫、面積は歩(坪)、体積は升を基本とする尺貫法と呼ばれる取り決めが作られ、計量制度および度量衡のはじまりとされています。
計量制度=計量の基準を定め、適正な計量を実施するための制度
度量衡=長さ・重さ・体積の基準を定める制度
尺・寸・分をメートル法に換算すると下記のようになりますが、これらの長さは時代・地域・用途などによって変化していたため、このように定義されたのは明治になってからのことでした。
1尺 ≒ 30.03cm
1寸 = 1尺の10分の1 ≒ 3.03cm
1分 = 1尺の100分の1 ≒ 3.03mm
諸説がありますが、1尺の長さの起源は手のひらを広げた親指から中指までの長さが大体15cmで、これを2倍したものとされています。また、1寸は親指の幅、1分は穀物のキビ1粒の幅と言われています。
尺や寸のように、体を長さの基準にしたものは世界各国でも見られました。これらは身体尺とも言います。
アメリカで使用されている1フィートという単位も、足の長さを基準にしたものです。
また、尺などはあくまで基本単位であり、その他にも多くの単位が生まれました。間や里といった単位も尺をもとに派生したものです。
1間 = 6尺 ≒ 1.818m
もともとは建物の柱と柱の間隔を表現したもの。現在でも和室や畳の大きさを表すときに使われる。
1里 = 36町 = 12,960尺 ≒ 3.927km
約1時間歩いた距離。かつて街道の1里ごとに一里塚と呼ばれる道しるべが作られ、多くは取り壊されてしまったがわずかに現存している。
3.メートル法とメートル条約
メートル法は、フランス革命後のフランスによって「いつでも、すべての人々のために」という理念のもと作られました。工業のめざましい発達や国同士の交流が盛んになり、それぞれの単位や長さが統一されていないことで不都合が生じていたためです。
メートル法では新しく長さの単位(メートル)を作り、それを基準に重さ(キログラム)、面積(アール)、体積(ステール)、液量(リットル)も取り決められました。また、1mは地球の北極点から赤道までの子午線距離の1000万分の1とすることが定義されました。
子午線距離をすべて正確に測ることは難しいので、ダンケルク~バルセロナ間を測定して算出し、その結果をもとに1mの基準器となるメートル原器が作られました。
さらに、メートル法を世界各国に使ってもらい推進や協力をしてもらうため、1875年にメートル条約が作られました。現在ではアメリカ・リベリア・ミャンマー以外の国が加入しており、リベリア・ミャンマーにおいてもメートル法への移行が進められています。
日本はメートル条約が締結された10年後に加入し、その数年後にメートル原器の交付も受けましたが、まずはそれまで使っていた尺貫法と併用するという形で導入されました。(度量衡法)
単位に馴染みやすくするためにメートルは m→米、リットルは ℓ →立というふうに漢字に置きかえるなどの措置がとられ、1平米などはこの時期の名残とも言えます。このような経緯もあり、尺貫法が完全に廃止されてメートル法へ移行するまでに74年もの歳月がかかっています。
4.尺貫法の廃止
度量衡法や計量法の改正により、1959年からメートル法に完全に移行して尺貫法が廃止されました。
これによって尺貫法で使用していた単位は取引などに使ってはいけないことになりました。ただし取引にあたらないものや併記・注釈などはOKとされています。たとえば土地・建築関係では坪・畳・間、食品では合・斤・升などが見受けられます。
これらは日本の文化に馴染みが深いものやちょうど良いサイズ感でもあり、mやkgなどに換算すると中途半端な数字になったり、使い勝手が悪くなってしまうものもあるためです。
取引においても例外があり、真珠では匁(もんめ)という単位が日本だけでなく世界共通の単位として使われます。(momme、mom)
5.ヤード・ポンド法
ヤード・ポンド法は長さはヤード、重さはポンドを基本としたもので、主にアメリカやイギリスで使用されています。下記はヤード・ポンド法で使われる単位の一例です。
長さ・・・インチ、フィート、ヤード、マイル
面積・・・エーカー
液量・・・ガロン、オンス
日本では尺貫法と同様に、ヤード・ポンド法での単位についても原則として取引に使用することは禁止であり、取引にあたらないものや併記・注釈などはOKという扱いになっています。例外にあたるのは航空・宇宙・軍事・コンピュータなど、アメリカの影響が大きい分野です。
その他にも自動車部品・一部の電化製品や工業製品・スポーツなどの分野でも併用されているものが多く見られます。工作機械においても、チャックのサイズはインチで表記することがほとんどです。
6.メートル原器の廃止と新基準
メートル条約と共に作られたメートル原器は白金とイリジウムの合金でしたが、どんなに硬くて変化しにくい物質であっても経年による劣化や変質は起こってしまいます。また、人の手で作る以上は製作時に誤差が生じますし、事故や災害による破損・紛失などのリスクも起こりかねません。
そこで1960年に開催された国際度量衡総会でメートル原器は廃止され、クリプトン86元素が真空中で発する橙色の波長を1mとすることが決められました。さらに1983年に再び開催された時には、レーザー技術の進歩により、光が真空中で299,792,458分の1秒間に進んだ距離を1mとすることが決められました。
こうして1mの基準は物質ではなく、物理定数によるものに変わりました。
7.国際単位系(SI単位)
当初のメートル法ではMKS単位系と呼ばれる、m(長さ)、kg(重さ)、s(秒)を基本とした単位でさまざまな量を表していました。少し遅れてA(電流)が追加され、MKSA単位系となります。
その後、科学の発展とともにこれらの単位だけでは表しきれないものが出てきました。そうしてさらに追加と修正が行われて出来たのが、今も使われている国際単位系(SI単位)と呼ばれるものです。
SI単位ではMKSAにK(熱力学温度)、mol(物質量)、cd(光度)の3つの単位が追加されました。現在ではSI単位の7つの基本単位をもとに、SI組立単位やSI接頭語などが併用されます。
SI組立単位
基本単位のべき乗の積の単位で、現在22個が取り決められています。
例えばHz(ヘルツ)、Pa(パスカル)、J(ジュール)、W(ワット)などが挙げられます。
SI接頭語
大きいまたは小さい量の表記を簡略化するために、SI単位の10進の倍数を単位化したものです。
例えば k(10³:キロ)、M(10⁶:メガ)、G(10⁹:ギガ)、c(10⁻²:センチ)、m(10⁻³:ミリ)、μ(10⁻⁶:マイクロ)などが挙げられます。
SI単位は2018年に大幅な定義の修正が行われ、これによってすべての単位の定義が物理定数となり、物質の性質や人工物に依存しない不変的なものになりました。長さは旧定義でも既に物理定数だったので、定義の表現は変わりましたが本質は変わっていません。
また、SI接頭語の現在の最も大きな単位はY(10²⁴:ヨタ)、小さな単位はy(10⁻²⁴:ヨクト)ですが、2022年11月に追加案が出される予定です。
8.最後に
いかがでしたか?
かつては各国や地域でバラバラなものを使ってきた長さの単位や定義は何度も見直しや修正が行われて現在に至り、今ではほぼ世界中の人々が同じものを使っています。これは長い年月をかけて利便性や正確性をひたすらに追求してきた、人々の努力や探求心の成果と言えるでしょう。
これからもそう遠くない未来に、定義が変わったり単位が増えるかもしれないと思うとワクワクしますね。