金属を切削加工する際にはさまざまな金属材料を扱います。これらはどのような素材で作られていて、何が違い、どうやって使い分けているのでしょうか。
目次
1.金属材料の分類
金属材料は鉄鋼金属と非鉄金属の2種に大別されます。
鉄鋼金属・・・鉄と炭素がベースの金属
非鉄金属・・・鉄以外の金属
鉄は金属の中で最も多く利用され存在している物質ですが、鉄100%に近い純鉄は強度が低く加工もしづらいため、炭素や他元素の添加によって性質と利便性を高めています。これらを総称して鉄鋼金属と言います。
鉄鋼金属は炭素量、元素量、製造方法によって下記のように分類されます。
2.炭素鋼
炭素鋼は低炭素鋼、高炭素鋼と呼ぶよりもエスエス、エスシーなど材料名で呼ばれることが多くあります。一例として以下のような材料があります。
鉄は炭素量が多いほど硬度を増します。
上記ではSPC材が最も柔らかく、SK材が最も硬いということになります。
SPC材(冷間圧延鋼材)
薄い板が主で、その柔らかさを生かし板金のプレスや曲げによって加工されます。加熱する必要や切削による熱が発生せず、材質の変化が少なく済みます。
SS材(一般構造用圧延鋼材)
建物などの構造に利用され、安価で汎用性が高く形状もさまざまなものがあり、最も普及している材料です。SSの後ろに付いた数字は引っ張り強さを表し、SS400なら400MPaに耐えうることを保証しています。
このSS材を改良したハイテン鋼というものがあり、引っ張り強さは1000MPa以上にも及びます。
ハイテン鋼はその引っ張り強さから加工がしにくいものでしたが、加工する機械の性能が向上したことと車両などの軽量化を目的とし、近年利用が増えた材料です。
S-C材(機械構造用炭素鋼鋼材)
機械部品やボルト・ナットなどに利用され、焼入れで強度・硬度を上げることができる材料です。
SとCの間の数字は炭素量を示し、S45Cなら0.45%という意味になります。
SK材(炭素工具鋼鋼材)
工具などに利用され、硬度と耐摩耗性に優れた材料で焼入れも可能です。
SKの後ろに付いた数字は炭素量を示し、SK95なら0.95%という意味になります。
3.特殊鋼(合金鋼)
特殊鋼は炭素鋼をベースに元素を添加したもので、さまざまな性質が高められています。
ステンレス鋼
鉄とクロムの合金で、クロムによって不働態被膜というごく薄い膜が形成され、錆びにくく汚れにくい金属です。ステンレスの中でもオーステナイト系、マルテンサイト系など5種に大別されており、それぞれ同じ鉄でも組織の形態が違っています。SUSからサス材とも呼ばれます。
クロムモリブデン鋼
鉄、クロム、モリブデンの合金で、強度に優れており溶接しやすいことから自転車のフレームなどに利用されます。クロモリとも呼ばれます。
合金工具鋼
合金工具鋼も特殊鋼の一種で、SK材をベースにクロムやタングステンなど多元素を組み合わせたものです。
SK材は鉄と炭素のみの構成の為、焼入れ性が低い・高温耐性が低い性質です。それを補う為に元素を添加し、焼入れ性を良くして耐摩耗性や耐衝撃性を向上させたり、高温切削にも耐えることを可能にしたのがこれらの材料です。
ダイスはダイキャストの略称で金型鋳造を意味し、ハイスはハイスピードの略称で高速切削を可能にすることからそう呼ばれています。
4.鋳鉄
炭素量が多いため融点が低く、熱で溶かして型に流し込み成型する鋳造に使われる材料です。
FCの後ろについた数字は引っ張り強さを示しています。
炭素量が多いことから黒鉛(グラファイト)と呼ばれる組織が結晶化し、普通鋳鉄では硬く脆い性質です。それを工法を工夫したり元素を添加させたりして靭性を向上させたものがダクタイル鋳鉄です。
5.非鉄金属
非鉄金属は一例として以下のようなものがあります。
これらは単体だけでなく、組み合わせた合金として使用することが多くあります。
ジュラルミン
アルミニウムをベースに銅、マグネシウムなど多金属の合金です。強度と軽量性に優れ、車両部品、航空機、その名がついたジュラルミンケースなどに使われます。
医療用チタン
純チタン、もしくはチタンをベースにアルミニウム、バナジウムなどの合金です。軽量性と強度を兼ね備え人体への影響を限りなく低くしたもので、人工心臓弁、人工股関節、カテーテルなど様々な医療器具に使われます。
はんだ
鉛とスズの合金で、融点の低さから金属同士や電子回路部品の接合剤として使われます。近年では環境や人体への影響を考慮して鉛フリー化が推し進められています。
真鍮
銅と亜鉛の合金であり、その色から黄銅とも呼ばれます。加工しやすく見た目が良いことと、殺菌効果を持つことから硬貨(5円玉)、金管楽器、インテリア製品などに使われます。
6.金属材料の切削加工
切削加工では被削性を考慮する必要があり、硬くて丈夫なものを作ろうとするほど材料も硬くて削りにくいものであることが多くなります。このような被削性の悪い材料を難削材、反対に被削性の良い材料を快削材と言います。
快削材には硬度はなるべく下げないようにしつつ、被削性がよくなるように元素を添加するなどして作られた材料があり、このような鋼が快削鋼(SUM材)です。もともとは鉛を添加して作られていましたが、近年では鉛フリー化により硫黄・マンガン・リン等を添加したものが作られています。
被削性を数値化したもので被削性指数があり、これは数値が低いほど削りにくいことを表します。数値は条件や材質によって変動しますが、硫黄を添加した快削鋼を基準の100としています。
難削材を切削加工するには工作機械自体のパワー、刃物の材質や硬さ、切削条件などを適正なものに整える必要があります。
7.金属材料の選定基準
製品においては強度だけでなく、使用するシチュエーションによってさまざまな性質が必要とされます。
・強度、硬度
・耐摩耗性、耐久性
・軽量性
・重量感
・質感
・熱伝導性
・耐食性、対候性
・コスト
・見た目の良さ
・人体との親和性
例えば、グレーチングにはダクタイル鋳鉄、ステンレス、鋼、アルミなど多様な材質で作られたものがあります。大型トラックが行き交いするような場所では強度だけでなく重量感や耐久性のあるものを、住宅用で時々取り外して清掃することを考えるなら軽量性やコストを必要とするでしょう。
フライパンや鍋においても鉄、ステンレス、アルミ、銅など多様な材質を組み合わせたり何層も重ねたり、工法を工夫することで差別化されています。それを熱伝導性、耐摩耗性、見た目の良さ、コストなどから何を最も重視するかは個人の好みや使用環境によって変わってきます。
8.まとめ
上記で紹介した材料は基本的なものばかりで、金属材料はその構成・配分・工法によって無限ともいえる組み合わせがあり、日々新しいものが生み出されていきます。そのため定期的に今使っている材料が適切であるかを見直したり、より良いものがないかをリサーチすると良いでしょう。そうすることで品質が向上したり、加工時間を短縮できたり、さまざまな可能性を得ることができるかもしれません。