切削加工で生じるものには、ミストと粉塵があります。ミストは切削油を使うことで発生し、粉塵は鋳物やセラミック・カーボンなどを加工するときに発生します。いずれも有害なものです。
多くの現場で使われているのが水溶性の切削油ですが、これらは加工時の熱で気化し有害なオイルミストとなって排出されます。このオイルミストを対策しないまま放置していると、工場内の設備の汚れや故障の原因、環境被害につながってしまいます。また油性の切削油を使用する場合は火災等のリスクにも備える必要があり、自動消火装置+防火ダンパーなどの機器が必須となります。
今回は、そのような有害物などの対策のための装置のひとつ、「ミストコレクター」についてご説明します。
目次
1.ミストコレクターとは
切削油を使った加工で発生するオイルミストを吸い込み、除去するための装置です。切削の熱で気化した油分を空気と分離させるために用いられます。
発生したオイルミストをそのままにしておくと、工場の中の機械や設備だけでなく従業員の健康被害にもつながるため、ミストコレクターは重要な役割を担っています。
2.ミストコレクターの種類
・フィルター式
ファンで吸い込んだオイルミストを、フィルターを通してろ過し油分を除去するタイプのものです。複数のフィルターを通して空気から油分を取り除くというシンプルな仕組みのため、取り扱いや設置が簡単にできます。多くの工作機械に用いられているミストコレクターです。
- 【特徴】
- ・安価な製品が多く初期コストがかからない
- ・コンパクトで軽い
- ・フィルターの交換が必要なため維持コストがかかる
・遠心分離式
高速で回転する装置を使い、ファンで吸い込んだオイルミストの油分を遠心力で弾き飛ばして分離させるタイプのものです。フィルター式と同じくシンプルな仕組みで、こちらはフィルターが無いため維持・管理の手間もかかりません。
- 【特徴】
- ・フィルターが無いため、手間やコストがかからない
- ・廃棄物が発生しない
- ・コンパクトで軽い
- ・1μm以下の粒子は除去できない
・電気集塵式
電気の力でオイルミストの油分を引き付けて、分離させるタイプのものです。他の種類と比べて初期コストは高めですが、電気を通す電極は洗えば繰り返して使えるので、性能を維持したまま長持ちするという利点があります。
- 【特徴】
- ・1μm以下の粒子も除去できる
- ・電極は洗浄すれば繰り返し使える
- ・価格が高い
- ・高電圧を使用するので、設置の際や取扱には注意
3.ミストコレクターを導入するメリット
オイルミストの対策のために、それぞれの作業環境に適したミストコレクターを導入することによって以下のようなメリットがあります。
従業員の健康を守る
オイルミストが皮膚についたり、吸い込んでしまうことで起こる病気もあります。ミストコレクターを導入すれば、加工時のオイルミストを除去しきれいな空気が工場内に広がるため、従業員の健康を守ることができます。
品質や生産性の低下を防ぐ
オイルミストが空気中に広がると、工作機械に動作不良が起きたり、工場内の床や設備に溜まって転んだり物が滑り落ちるリスクがあります。これらの対策をすることで、品質や工場の生産性の低下を防ぐことにつながります。
環境負荷の低減に貢献
空調設備にオイルミストが入ると、空調の効果が低下して余分な電力が使われCO2が増加してしまいます。ミストコレクターを正しく設置すれば無駄なエネルギーの消費を抑えることができ、環境負荷の低減に貢献できます。
機内の温度上昇を防ぐ
ミストコレクターを設置していない機械では、熱を持ったミストが機内にこもり機内温度が上昇してしまいます。ミストコレクターを設置することでこのような機内の温度上昇を防ぐことが出来るため、温度変化の影響によるよる寸法変化を減らすことができます。
4.ミストコレクターの設置方法
加工部がオープンな場合
局所吸気方式
広いフード状になった吸引口からオイルミストを吸い込み、除去する方法です。ミストコレクターを直結させることができないオープンに加工する工作機械の場合は、こちらの方式のものが用いられます。
- 【設置される主な工作機械】
- ・汎用旋盤
- ・研削盤
加工部がクローズドな場合
直接吸気方式
機械とミストコレクターを繋ぎ、オイルミストを直接吸い込んで除去する方法です。NC旋盤や複合加工機など、主にクローズドで加工する工作機械に用いられ、オイルミストの吸引口を設けることで直接装置を取り付けることができます。
- 【設置される主な工作機械】
- ・複合加工機
- ・マシニングセンタ
その他の場合
広域吸気方式
工作機械ではなく、工場内に直接ミストコレクターを設置して除去する方法です。大型のものをダクトに取り付けたり、小型のものを工場の複数箇所に置くなどの方法があり、他の方法ですべてのオイルミストを取り除けない時に使われます。
- 【設置される主な工作機械】
- ・なし(工場内に設置するため)
5.併せて設置される関連装置
水溶性の切削油による加工はミストコレクターだけで対策できますが、油性の切削油を使用する場合は以下の装置も併せて設置する必要があります。
消化装置
油性の切削油を使用する場合や、発火性のある材料を加工する場合は消化装置が必要になります。そのため、工作機械には消火剤の吐出口も設けられます。
防火ダンパー
油性切削油で加工する工作機械にミストコレクターを取り付ける場合は、延焼防止のため必ず防火ダンパーを設置しなければいけません。防火ダンパーを設置する事で、機内で発生した火災の延焼を防ぐことができます。
工作機械の周辺装置については以下の記事でも解説しています。よろしければこちらもご一読ください。
6.まとめ
有害なオイルミストは、工場内の設備や工作機械、そして大切な従業員の健康にも害をおよぼす可能性があるため対策は必須です。各工場や機械に適したミストコレクターを選び作業環境をより良いものに改善できるよう、今回の記事をお役立ていただけると幸いです。
中村留精密工業は、水溶性・油性の切削油の処理どちらに対しても幅広い周辺装置のご提案ができます。自社の作業環境にお悩みの方は、是非ご相談ください。
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